4日目

BGM

ふと、外から感じる眩い光に、俺の意識は再生した。

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「あー!やっと起きたんだ。」

そこに、懐かしく聞きなじみのある、甲高い声が聴こえてきた。

俺はその元である正面へと、ぼやけていた視界を次第に明瞭にする。

・・・

そして彼女の姿が初めて映ると、どこからか込み上げてきた思いが、途端に景色を淡く滲ませた。

「ちょっと、なんで急に泣き出しているのよ!?」

「俺は、お前をずっと待っていて、それで今、お前が目の前にいて、それが間違いじゃなかったって分かったから・・・」

「そっか、」

彼女は後ろへ振り向き、強がって空を仰いでいた。

・・・

しばらくして落ち着くと、彼女は俺の隣に座り、手提げを一瞥した。

「そういえば、私があげた御守り、ちゃんと持っていたんだね。」

「まぁな。」

「私も、それとお揃いのを持っているんだよ、ほら。」

彼女が左ポケットの中をまさぐり、取り出したそれも一緒のモノであった。

「実は、私も待っていたんだ。もう会えないだろうって、待っていることに意味がない事も知っていたはずなのに、あの夕暮れだけは忘れずにいた。」

正面のどこか遠くを見つめた様子で彼女はそう語った。

「俺もそうだったよ。それを悟るのが怖くて、逃げてばかりだった。」

「でも、今はもう違うけどね。だってこうして-」

『私は、あんたに会えて良かったって思えたから。』

『俺は、お前に会えて良かったって思えたから。』

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彼女と手を繋ぎながら、山際へと次第に落ちていくそれを、石階段に座りながら眺める。

「あの日と変わらず、ここは眩しいな。」

「うん、、そう、だね。」

「どうかしたのか?」

そう尋ねると、突然、彼女は俺の方に身を乗り出してきた。

「本当は、、」

彼女は一呼吸を置き、顔を見合わせると、、

想いを抱いて

「私はもっと、あんたと一緒にいたい!我儘で、自分勝手な願いだってことは分かってる!それでも、この時間が終わってしまうのが嫌だから!だって私は・・・」

溜まっていたのだろう想いを、切々と掃き出した。

・・・

「今の俺にも、あの時お前が言っていたことが分かる気がする。」

「え?」

「夕日が沈む姿を見るのはどこか寂しい、それは明日も変わらずに昇ると知っていても。俺も、今のこの景色が長く続いてくれたらって、そう思えるよ。」

「しばらく見ないうちに、生意気になったんじゃないの?」

彼女は右手で涙を防ごうとしたけれど、次々と落ちていく。

「そうかもしれない。でも、だからこそ言えるよ、」

彼女は一瞬だけ拭われたその顔を上げ、目を合わせた。

「お前が好きだ。」

「うん・・私も、君が好きだよ。」

俺も彼女の手をそっと力強く握り返す。

頬を伝い続うばかりのそれのせいで、視界なんてぼやけるばかりだけれど、それでよかった。

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おれんじ色に包まれていた光景が、いつの間にか暗がりへと傾き始めている。

「もう手は放してくれていいよ。」

「そうか。」

俺が手を放すと、彼女は立ち上がった。

「私は一人じゃないって分かった。それだけで、きっと前(さき)に進めるはずだから。それだけ、なんて贅沢過ぎるほどで、ロクに表現さえも思いつかないや。」

「そうだな。俺も大切な用事を伝えられたから、きっと迷わずに歩むことができる。」

そうして俺も立ち上がると、最期のあの光が彼女との合間に奇麗に射し込んだ。

「ありがとう、私を待っていてくれて。」

「こちらこそ、ありがとう。」

そうして俺たちの影は、暖かに夕焼けた空と共に、その姿を沈ませたのであった。

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